カズシン株式会社 代表取締役 山内和美のブログ
不動産業界20年を超えて、この経験に基づく…取引のこと、物件のこと、人間のこと。
宅地建物取引業者(不動産業者)カズシンの代表 山内和美が思うこと。
2018.03.05
日夜、連日、メディアで報道されている「かぼちゃの馬車(スマートデイズ・旧スマートライフ)」のサブリース賃料の支払いがストップした件。たまたまオーナー様から管理について問い合わせがあり、シェアハウス専門の運営管理会社を紹介してほしいという話でした。知り合いがいたので、そちらをご紹介しました。
現在、その運営管理会社とオーナー様の間で委託条件の相談をしているところです。
ご紹介した運営会社は、主として、リビングをもうけてシェアハウスならではの交流をおこなえるようにしています。
この会社さんに、このところ「かぼちゃの馬車」のオーナー様からの直接の問い合わせも多く入っているそうです。条件の折り合いがつく物件に関しては、すでに受託を受けているものもあるとか。
「かぼちゃの馬車」では、あえてリビングをもうけないことで、入居者がプライベートを大切にでき、煩わしい人間関係を生じさせず、無用なトラブルを回避できるということを掲げていました。
実際のところはどうなのでしょうか。
私が初めて親元を離れ一人暮らしを始めた1つ目の物件は、大学のすぐ近くの古い一戸建て形式(玄関一つ)共同アパートでした。大学の学生課の貼り紙を見て、借りました。田舎者で、のんびりしているうちに、入学の日が近づき、あわてて大学へ向い、まだ残っていたわずかな物件のうちの1つでした。記憶では、賃料はお安く1万円前後(記憶があいまいですが)だったと思います。
女性専用で、大家さん老夫婦が1階に住んでいました。1階と2階に、数室、貸出用の部屋がありました。おそらく1階4室、2階6室(くらい)だったと思います。
1階と2階に、それぞれ台所とトイレが1つずつ。共同のお風呂もシャワーもなく、すぐ近くの銭湯通いでした。
大学1年生から4年生まで、同じ大学の女子学生の共同生活。リビングはなかったのですが、廊下の奥の台所前で話込んだり、誰かの部屋で遅くまで語り合ったり、時にはノックされて長時間の立ち話に付き合わされたり、毎日のように交流がありました。
とくに新1年生は、親元を離れて初めての一人暮らしが寂しくて、いつも誰かの部屋で集まっていました。料理をして、一緒に食べることも多かったです。リビング代わりの部屋に誰かの部屋がなっていた感じでした。
ただし、部屋はしっかり区切られていたため、隣の部屋の音が気になるということなどはなく、自分の部屋で一人になれば、他の人のことはあまり気になりませんでした。部屋の広さも、おおむね、4.5畳はありましたので、息苦しいというほどのこともなかったです。
リビングで交流するのと、立ち話や他の人の部屋で話し込むのと、どちらがいいかと言えば、私であれば、リビングの方がいいと思います。
立ち話であればすぐ終わるかと言えば、そんなことはなく、どこで話を終えたらいいものなのか、とくに若い頃は言い出せなくて、付き合い続けてしまいがちです。他の人の部屋で話し込むのはとくに仲の良い間柄であればいいですが、そうでないと、また面倒なものです。
もしリビングがあれば、自分とその人の2人の会話だけでなく、他の人も参加してきたり、なんとなく、その場を抜けたり、若干でもやりやすい面もあるのではないかと思います。
私はその後、学生時代に、共同のアパートの経験があと2回ありますが、いずれもリビングはなかったです。したがって、部屋へ行ったり来たりのことが多かったです。それらはいい思い出でもありますが、昔の貧乏学生時代やむを得ず住んだら、そうなったということです。
今で言うところのシェアハウスに住む、ということを期待して住んだわけではありません。でも、寂しくなくて良かった点もあります。
「かぼちゃの馬車」スタイルは、昔、私が学生だった時に、高い家賃が払えないために住んだ共同アパートみたいなものだとすると、寂しくて、部屋を行き来する入居者もいるでしょう。
そうすると、防音があまり良くないだろうと想像される、その(「かぼちゃの馬車」)部屋の声や音が隣に筒抜けになるでしょう。
リビングも位置によりますが、各部屋から少し離れたところに作れるならば、やはり、リビングで気兼ねない会話をした方が、全体的に生活はしやすいと思われます。
ところで、今、一戸建てで貸すか、シェアハウス(数人で住まう)で貸すか、相談を受けてシミュレーションをしている物件があります。
そちらは、駅から徒歩10分と、シェアハウスとして貸すにはぎりぎりのラインですが、お庭がたいへん美しく、お庭の前も建物が建っておらず開けています。その魅力があるので、シェアハウスにしても入居付けはできるのではないかと思っています。
お庭がすばらしくても、これが徒歩15分、20分ともなれば、シェアハウスは無理だと思います。一戸建てでもかなり難しい面がでてきます。
シェアハウスは、とくに立地が大切だと思います。
「かぼちゃの馬車」を購入して、賃料が止まり、たいへん困っておられるオーナー様のうち、すでに相当数の方が、スマートデイズ(旧スマートライフ)との管理委託契約(借上げ)を解除し、新たな管理会社さんと契約を締結しているのではないかと思われます。
借上保証を付ける管理会社さんはほとんどいない(いても、付ける場合には、かなり低い額になる)ので、多くの方は管理委託での再出発となることでしょう。
さて、お問い合わせいただき、シェアハウス運営管理会社さんをご紹介させていただいた、「かぼちゃの馬車」のオーナー様の物件。複数所有されており、立地はいくぶん良いと思われるものもありました。駅から比較的近い場合は、専門の管理会社さんが力を尽くせば、おおむね空室も埋めていけるのではないかと期待がもてそうです。
スマートライフ(現スマートデイズ)は、驚くべきスピードで物件数を増やしてきているのですが、破綻が明らかに感じられる前の時期、とくに物件を供給する当初、早い時期においては、立地を選別していたものと思われます。
土地自体がまだ見つけられたということもあるのでしょう。あるいは、まずは、できれば(入居付けできる)いい場所で建築しようという意識もあったのかもしれません。
きっと最初は、皆さん、警戒をすることでしょう。よく知らない会社が持ってきた儲け話がいくら良い話に聞こえたとしても、聞いたことがないようなマイナーな駅で徒歩15分、20分、となると、「?」「わざわざはいいや」という気持ちになるのではないかと思います。
したがって、最初は、説得力がありそうな、立地や内容を見せるものではないでしょうか。建てれば、モデルルームみたいな感じでも使えるかもしれません。以降のビジネスモデルの説明にも使えるでしょう。
次の購入検討者に、「こういう物が建ちます」と説明できれば、説得力が増し、皆さん、「そういう物なら大丈夫かな」と納得してしまうこともあるでしょう。
そしてモデルとなる建物には実際に入居者が入っているとなると、なおのこと、投資家(今回はその多くが一般の会社員のようです。)は安心することでしょう。
だんだん軒数が増えてくると、「皆さん買っています」「何百人もの方が買っています」ということになります。メディアで宣伝されたり、あちこちのメディアで記事になり取り上げられたりすると、個別の物件の良しあしではなく、「みんな買っている」ことでの安心感が大きくなるのではないでしょうか。
「みんなで渡れば怖くない」という感覚が起こり出すと、すごい勢いで物件も売れることにつながり、相乗効果で、「買って大丈夫」という感覚が強まるものではないでしょうか。その頃には、土地自体も少なくなっている(次々に仕入れなくてはならないので、良い土地を選別している時間もない。またその必要性も置き去りにされる)ため、すでに建ち上がっている物件と比べると、立地のよくない物を買うことになっている例が多いのかもしれないです。
比較的に早い時期に、立地のわるくない物件を買われた方は、今回の破綻まで収入(家賃保証)も受け取れたうえ、スマートデイズ(旧スマートライフ)の借上保証がなくなっても、なんとか空室も埋めていける、管理を引き受ける専門会社とも折り合いが付くことの可能性も高いです。
みんなが渡る前に渡った方は、ある意味、リスクをとった方です。そのリスクは、「誰も(あまり)やっていない(まだこれから)」ということ。
リスクをとるのですから、怖いところがあるはずです。怖いところがあるから、立地なども気にすることになるでしょう。
また、売る方も、これからの物は簡単には売れないため、売れる物を売らなくはならないことは、およそわかっていることと思います。
リスクに対する直観が強いほど、成功する確率(失敗をおさえる)は高まるものではないかと思われます。
たくさんの人が買っているということに安心してしまって、リスクに対する直観があまり働くなってしまった方もいらっしゃったのではないかと思います。
失敗するにしても、「みんながやっている」ということではなく、「大丈夫かな?」と、リスクに対して検討されることが大きかった方のほうが、最終的には痛手は少なく済む傾向があるのではないかと想像します。
リスクをとるということは、それだけ慎重にならざるを得ない面も生じるため、物件についても、何でもいいというわけにもいきづらくなります。
売る方もそのあたりは頭にあるものですから、最初はできるだけ「いい物件」を見せていくことになるのではないでしょうか。
「いい物件」で実績が出てきたら、「ほどほど」の物でも売れるようになります。最初に買うのはリスクもあって慎重にならざるを得ないですが、それでもリスクをとれば、成功とはいかなくても、失敗の痛手が少ない場合もあるということでしょう。
みんなが買っているからリスクがない(少ない)というような雰囲気になってから購入する場合は、じつは、その裏に、大きなリスクが隠れているということが本質なのではないかと思います。
売る方は、買ってもらうために、何をしなくてはならないか、この物件の価値をどこまで高めなくてはならないか、またどの程度でも買う方は付くのか、そういう、シミュレーションを絶え間なくやっていると考えておかれていいのではないかと思います。
不動産業は、価格と物件価値の天秤の目盛りを見るような商売です。
したがって、目盛りの振れ幅が大きい時は、静止するまで待つことが賢明だと私は考えています。
しかし、勇気がある方はここで飛び込みます。飛び込んで勝てる方は、本当に稀ですが、中にはごく一部いらっしゃいます。
とは言え、勝てる方は、最初に、そのことのリスクをよくご存知です。わかったうえで飛び込むのです。怖くて誰も渡れない橋を、覚悟を決めて渡るから成功があるとしても、その橋は怖い橋であることを承知のうえで、渡るのです。だからそのリスクに対するリターンが大きいのです。
落ちたら、リターンはありません。
カズシン株式会社
代表取締役 山内和美