カズシン株式会社 代表取締役 山内和美のブログ
不動産業界20年を超えて、この経験に基づく…取引のこと、物件のこと、人間のこと。
宅地建物取引業者(不動産業者)カズシンの代表 山内和美が思うこと。
2020.01.19
空き家が増えている実感があります。
人気物件には複数手が上がる(買うにしても、借りるにしても)一方、引き合いのない物件はずっと決まらないということです。
供給過多なのでしょう。物件の淘汰が起こっていると思います。また借りたい需要が多かった時代とは、すでに大きく変化したことを感じます。
私の感覚では、物件価格は長い間のべてみれば、下がっている印象ではなくむしろ上がっている気がするのですが。賃料は物件価格に関わらず据え置き、維持できているか、あるいは部分的に下がっていると感じます。
価格があがるのに、賃料は変わらずで収益性が下がるのですから、不動産を購入することはそれほど率の良い話ではなくなっていると思われます。
それでも、不動産は、今日買ったものが明日半値になるということはまず起こらないとすれば、固いと言えばやはり『固い』投資と言えそうです。
当然ですが空き家が増えれば、空室が埋まりづらくなる物件も増えるでしょう。
入居者が選べる時代においては、空室を埋めるためにはかなり家賃を下げるほか入居付けできない物件は多数となることでしょう。
日本の人口は減り、空き家は増えています。
東京でも空き家が目立つようになり、地方へ行けば「値段の付かない空き家」はたくさんあることでしょう。
私が不動産業の仕事に入った頃(1997年、平成9年)は、「価格を下げれば売れない物件はない」「賃料を下げれば決まらない部屋はない」と同業者同士言い合っていました。「どんな物件でも売れない物件はない」「どんな物件でも入居者は入る」※ただし、金額次第。
もちろん、私が当時勤めていたエリア(東京)の話であり、当時から、地方の中には厳しいエリアもあったと思います。
今は、東京でさえ厳しい、というのが実感です。
東京の一部立地の良い場所は別にして、20年前であればそれほど間を空けずに入居付けができたエリアでも、簡単には決まらない物件も増えていると感じます。
とくに繁忙期(1月・2月)に決まらなかった物件は、半年も一年近くも空いてしまうこともあるでしょう。
20年前も、繁忙期以外に退去があると、繁忙期(引っ越しシーズン)まで耐えて待つことは珍しくなかったですが。適宜家賃を下げれば、長く空けずに入居者に振り向いてもらえる手ごたえがありました。
今はインターネットでたくさんの物件情報を見ることができます。買いたい人・借りたい人がインターネットで情報を見ているうちに、おおよそ相場がわかってきます。
売買価格や募集賃料を高めに出して、実際の成約価格・成約賃料は交渉でディスカウントされることも多いですが(ぎりぎりで掲載しているとか、人気物件で他から話が入ると思われる場合などは、掲載金額がそのまま成約金額ということもあります。)、物件の立地や築年、内容(設備のスペック)などと金額を照らし合わせているうちに、これは高いな、とかこれは値ごろ感があるな、とかだいたいわかってきます。
高いと最初からスルーされてしまう時代がきているので、掲載する側も適正金額を一層意識せざるを得ない時代がきているということになりそうです。
今ほどインターネットが浸透していない時には、不動産屋に入って皆さん相談されていました。
平成9年私が不動産屋さんに勤め始めた頃は、「レインズ」(不動産業者が互いに持っている物件情報を共有する)はFAXで送られてきており、インターネットで見るものではありませんでした。その後インターネットで見るようになり、不動産業者もインターネットに少しずつ慣れてきたわけですが。それとともに、インターネットで物件情報を集めて掲載する不動産のポータルサイトが活発になり、買いたい人・借りたい人も不動産屋に足を運ばなくても、インターネットでいろいろな物件の情報に触れることができるようになりました。
インターネットに出る前の物件情報もありますが、特殊な物件(たとえばラブホテルなどの営業物件等)でなくて、一般の方が普通に買われるような物件はおおむねインターネットで見ることができるようになっています。インターネットでたくさんの物件情報に触れていれば、知識も付いてくるので、『不動産屋』が口でうまいことを言って高い物を買わせたり、借りさせたりすることはいよいよ難しくなるものです。
昔「不動産は価格が有って無いようなもの」などとも言われましたが、今はそれは通用しないでしょう。
インターネット上の大量の不動産情報を蓄積して、機械的にその「物件価格」の相場、その物件「賃料」の標準が示されます。
根拠となる情報が成約価格ではなくインターネット掲載価格であったり、成約賃料ではなく募集賃料であったりするため、私(不動産業者の一人として)にとっては「ぴったり」感はないですが。それでも闇雲に不動産屋を歩いて、個別情報から1つ1つ相場感に近づいていくよりは、楽に情報が入手できるので使い勝手から、参考にする方は多いのではないでしょうか。
ところで、「ぴったり感がない」ということが非常に重要なところではあります。細かい値動きや細かい価格・賃料の違いに敏感で精通しているのは、当然ですが不動産業者の方です。
経験からくる不動産業者の勘のようなものは、今でも大きな意味を持っていると私は思っています。
昔の主婦が底値や特売の値段、平均的な値段、ちょっと高いちょっと安いに敏感で精通していたように、経験のある不動産業者は、個別に、自分がよく知っている分野にある物件であれば値段のちょっとした違いがわかるものです。突き詰めて言えば、それが本来の意味での「相場観」というものでしょうか。
インターネットは、不動産業者の持つ「相場観」を一般の方々にも持てるようにしたツールだと思います。
普段の暮らしの中でも、洋服は通販で安く買えるようになりました。家具も、雑貨もお店に行かなくてもネットショッピングで手に入ります。
不動産も暮らしや消費の一部です。
住まいだけではなく、株の投資がインターネットでできるように、投資用物件もインターネットで選べるようになりました。
通販で買えば洋服が安く買えます。店舗を借りれば家賃の支払いがあったりお店に店員さんを置いて給料を払わなくてはならないですが、インターネット販売なら倉庫に積みあげ、店員さんがいる必要もありません。
不動産屋に行かなくても、インターネットで物件情報が得られる時代になって、町の不動産屋に訪れるお客様は減っていると思います。
著書『ラブホテル経営戦略』(平成21年4月、株式会社週刊住宅新聞社発行)の「はじめに」で、私は次のことを書いています。
【この「不動産大不況」の中、先行きの見えない不動産業界の中で壁に立ちふさがれた方々が何と多いことか。あえて言えば、町の不動産屋さん(お店)は、非常に難しい時代に入っています。「何でも不動産屋さん」では生き残りは難しいと思われます。ネットで物件が成約することがスタンダードな時代です。わざわざお店に足を運んで物件を探す人は今後ますます少なくなります。】
この文章を書いてから、10年以上が経過しました。
ますますインターネットで物件情報が豊富に掲載されるようになり、町の不動産屋にわざわざ行く方は一層減少することでしょう。
情報はオープンになり、野菜や肉や日用品、洋服や雑貨と同じように、値ごろ感がない物は売りづらくなり値ごろ感のある物件でなければ、市場の競争に残れなくなるように思います。
少しくらい高くても売れるのは、かなり立地の良い希少物件であり、「ちょっと高い」と「なかなか動かない」という時代はもうすでに到来している気がします。
積極的に安くして売りたい売主や安くして貸したい貸主はいないわけですから、苦渋の決断を強いられる場面が想像されます。
「価格次第で必ず物件は売れる」「家賃次第で物件は必ず決まる」と楽観視できていた時代はすでに過去のことであり、「それでも売れない」「それでも入らない」という物件はあふれてくることでしょう。
昔であれば、不動産屋や大家さんが「お断り」した条件や入居者であっても、逆にその入居者に選んでいただけるために競合より条件を良くして競争に勝ち残らなくてはならない時代に入っています。
それでも、不動産は「固い」と思います。
洋服だって、他もいろいろ、インターネットで買えば安くていい物が手に入ります。昔のように物が高くは売れない時代です。
「不動産だけは違う」と、割合多くの方が思ってきたとしても、「だけは違う」という物は、インターネットの発達とともにもう見つけるのが難しくなっているのではないでしょうか。
不動産も物であるのですから、時代とともに、変わってきます。
東京の都心の立地の良い駅近物件のような一部の物件は今後も強い力を持つと思われますが、それをはずれる物件は、賃料もこれからは下げていかなくては入居者が入らない時代がやってきていると思います。賃料を下げれば入るなら御の字で、実際は「下げても入らない」極端に言えば「タダでも入らない」というシナリオも想像だけのものではないかもしれません。
(立地の良い駅近がますます好まれるようになるとは思われますが、長い年月の中で土地、その町が持つ価値が確立されており、同一の最寄駅であればその駅からの距離だけですべてが決定されるわけでもありません。少しくらいなら駅から遠くても、魅力ある治安の良い街並みで暮らしたいという考え方は残ると思います。)
いろいろ書いておりますが、とは言え、一言で言うならば、やはり依然として「不動産は手堅い」と私は思っております。
率がいくらかわるくなってきたとしても、ゼロにならない土地・建物というものの価値は、大きな価値だと思うからです。
ただ、価値がゼロになる土地・建物というものもあります。本当にゼロなのかと言えば、多少は色が付いていたりするとしても、「不動産」についての一般的な感覚からすると、驚くほど安い、というようなものなどはこれからどんどん出てくると思います。
引き取るのに、売る方が引き取り料としていくらかのお金を支払って、物件売却するというケースはすでに出てきています。
これからは、「不動産」は価値のある物と価値のない物に二極化していくのでしょう。
価値の高い物件であれば高い価格で売れるし、入居付けにも苦労はしない。一方、そもそも価値を失ってしまった物件の場合は、価格は安いが入居する人もいない。お金が動く不動産の世界において、「いくら」という価格こそ、現実の価値に近しいものです。価値と一致するとばかりは言えませんが、公平な取引であれば、完璧とまでは言えなくてもかなり一致してくるものです。
「いくら」というお金の数字は、時代や人が作りあげてきた現在を映し出し、未来の価値を先取りしているという気がいたします。
不動産業は、これから大変になっていくと思います。
しかし、大変になっていくのは、不動産業ばかりではないでしょう。特別な業種を除いては、いずれの業種もこれから大変になっていくのです。
日本の人口は減り、地方は空き家がいっぱいになり、所有者や不動産屋が売ろうと思っても値段が付かない時代がくれば、不動産屋は仕事ができなくなります。
人気物件や売れる物件、買い手が付く物件、借り手の手が上がる物件に皆が集中するようになり、1つのいい物件をめぐって、不動産業者は競争するようになります。一般的な物件であれば、大手不動産会社が有利でしょう。
町の老舗の不動産屋は自社(自社保有)物件、専任の預り物件などがあるので仲介が急にだめになるということでもなくまだできるでしょうが。新規の売主や貸主は大手に流れるようになり、弊社のような零細にはよほど古くから信用を得ている顧客や紹介ルート、あるいは相性の良い有り難いお客様とのご縁によって、細々とでも仲介物件で業を成立させていければいい方で、それ以上のことは難しくなるのだろうと思っています。
私はこれまで一般の物件だけではなく、ホテル(レジャーホテル・ラブホテル)物件を専門に扱ってきていたため、そのことが差別化となり今までやってこれた面があります。
ホテル(レジャーホテル・ラブホテル)は立地が重要で、立地によるのですが、他の一般の不動産と比べると今もまだ率(利回り)がいい物件だと思います。
経営、運営の努力次第で、立地にもよりますが、およそ努力が報われる営業物件でもあります。
扱わせていただいて、とてもやりがいを感じます。
他の物件に比べれば率がいい物件であるレジャーホテル・ラブホテルですが、やはり物件の二極化は激しくなっていくことでしょう。
ホテル物件などもインターネットで掲載され目にする機会が多くなったことに気が付かれている方もおられることでしょう。
ホテルなどは営業物件なので、売りに出ていることがわかると経営・運営に影響が出るので、水面下で取引されてきた傾向があります。
今後も引き続きそのような取引になると思いますが、ご多分に漏れず、の流れで見れば、ホテル物件も売却にあたりインターネットに掲載しようという方、掲載した方がいい物件、多くの方に知ってもらって早期売却を目指す方、いろいろ、たくさん出てきます。
レジャーホテル・ラブホテル物件であってもインターネットに掲載されるのが一般的になる時代がきたとしても、神経を使う取引であることには変わりがないことでしょう。
宿泊(休憩も)施設は、立地が重要であるばかりではなく営業者の力量によるところが大きいです。
経営者、営業者が物件(ホテル等)をどう育ててきたか、あるいはこれからどう育てようとしているのか、物件を見ているとその人たちの気持ちも感じるものです。不動産にはその人の価値観、生き方と歴史が詰まっています。
私は、ホテル物件ばかりではなく、「不動産」をこれからも続けていきたいです。
これからの「不動産業」は厳しさを一層増すとは思いますが、厳しくなるのは「不動産業」ばかりではなく、多くの他の業種も、日本という国の今から、未来の中で厳しい試練を受けることでしょう。
不動産の価値が昔ほど意味を持たなくなる時代がきたとしても、「固い」のは不動産だと思います。
手堅い「不動産」の魅力は大きいです。
これからも仲介人として、良いお話をまとめていきたいです。
インターネットがいかに力を持ち、さらに活発になったとしても、ロボットにされた値付けですべてが決まるとは思えません。
成約に至る過程においては、これからも多くのケースで、温かい仲介人の言葉で説得しなくてはならない、前に進まない段階が残ることでしょう。
身を切られるだろう値下げについては、仲介人もまた身を切るような思いで覚悟してお話する。信用できるその仲介人からの言葉であるからこそ、ようやく納得できるもの。それが人の気持ちというものであると思う時、仲介人としてこれからまだ「不動産業」で仲介として仕事の意義はあるのだと思えるのです。
売主様から物件をお預かりした時、できるだけ高く売りたい売主様の気持ちに添います。だから、それまでのお話の中で「高い価格」で買うと言った買主様とのお話を優先してまとめていくのです。しかし、その高い価格と言えるものでさえ、売主様のご希望価格とはかなり乖離していることも多いです。
売主様にすれば「買いたたかれている」ようなお話に聞こえたとしても、買主様からすれば「どこよりも高い価格で買うと言っている」という類のお話となります。
ロボットがこうした双方の言い分をうまくまとめることができるのでしょうか。データを処理して条件のマッチングはできるわけですから、その延長で人間の揺れ動く気持ちを納得させることもできるという流れに変わっていくのでしょうか。
数字をはじいて、売主買主の取引をマッチングさせることができるようになるのでしょうか。
ロボットが人間の意思を振り分けるような時代がいずれきたとしても、私は、仲介人の役目は形を変えつつも残るのではないかと思っています。ロボットが流す涙が人間の流す涙と同じにならない限り。つまり、ロボットが繊細な感情を持たない限り?
哲学みたいなことを考えていても未来のことはわかりませんね。答えはいずれわかるのでしょう。未来の答えはどのようなものでしょうか。
仲介ではなく、「物を持つ」という方向へシフトしていく不動産業者も多くいることでしょう。
零細であっても、物を持って売る(転売)、物を持って貸す(大家)という方向へ行けば、大手でなくても生き残りができると考えるからでしょうか。
おそらくそう考える方は多く(私も一つの方向性だと考えています)元手の大小にもよるでしょうが、それでうまくやれる方もおられることでしょう。
ただ、転売で利益を得ることも激しい競争のもと。家賃で収益があがる物件を買ったり(買えたり)維持する(維持できる)のも簡単ではないでしょう。そう考えると、「物を持つ」「持っていいものを持つ」ということが、いかに難しく、競争に勝ち抜くことは誰もができることではないのだろうと思われます。
誰もができること、簡単なことであれば、誰もがやることになり、結局、競争となり成功している人は限られていることでしょう。誰もができることで、簡単なことで、簡単に誰もが成功できるなどという、そんな都合の良いうまい話はあるわけはなく、参入が簡単であり競争が激しくなればなるほど、一部の出来る方がやって始めて成功するものでしょう。何事も、その一部に残るということは、険しい道であり、試練の連続と言えそうです。
「不動産業」ばかりではなく、日本の多くの業種が、これからは大変になってくるのだろうと思います。
皆さんはいかがお考えになりますか? 私とは異なる考えの方もおられることでしょう。
その未来が現実どうなったのか、自分の目で見届けられるよう、元気でがんばっていけたらいいなと思います。
カズシン株式会社
代表取締役 山内和美